小規模宿泊業の資本のあり方に関する研究, 井門 隆夫, 地域政策研究, 26, 4, 133, 144, 2024年03月26日, 高崎経済大学地域政策学会, 日本の小規模宿泊業の課題として低生産性が指摘されるが、小資本が個人根保証を前提に過大債務を抱える資本構造は、生産性向上の障壁のひとつとなっていると想定される。海外に目を向けると、自然環境や伝統文化を保全し、地域人口の維持や経済発展を目的とした「ローカルロッジ」の例がみられる。こうしたロッジの資本は、慈善財団や寄附といった私財がベースとなっていることが多い。寄附文化のない日本では、高齢者の個人金融資産が膨らむばかりで宿泊業の資本へと向く事例は少ない。一方で、補助金が疑似資本となるケースは多い。そこで、自治体と宿泊業、金融セクターが協働し、小規模宿泊業へと出資するコレクティブ・インパクト型宿泊業経営を提案したい。
小規模宿泊業の社会的インパクトに関する考察, 井門隆夫, 地域政策研究第25巻第2号, 2022年12月28日, 高崎経済大学地域政策学会
新たなエコロッジ概念に関する一考察, 関口莉奈穂、井門隆夫, 第37回日本観光研究学会全国大会学術論文集, 2022年12月18日, 日本観光研究学会
小規模旅館業の労働生産性と今後の展望, 井門隆夫, 地域政策研究, 24, 3, 61, 70, 2022年01月, 高崎経済大学地域政策学会
学生による旅館業運営の試み —小規模宿泊業の労働生産性向上に向けて, 井門隆夫, 地域政策研究, 23, 3, 2021年03月, 高崎経済大学地域政策学会
旅館事業再生過程におけるPBL学習の試み, 井門隆夫, 地域政策研究, 22, 2, 2019年12月, 高崎経済大学地域政策学会
地方小規模宿泊業(旅館業)における労働環境, 井門隆夫, 日本労働研究雑誌, 708, 2019年07月, 労働政策研究・研修機構
訪日外国人の高崎市への立寄り需要に関する一考察, 井門隆夫, 地域政策研究, 21, 1, 2018年08月
小規模宿泊業の労働生産性向上に向けて―鳥羽市宿泊業調査結果から, 井門隆夫, 第32回日本観光研究学会全国大会論文集, 2017年12月
旅館業の現状と課題 ―事業承継のあり方に関する考察―, 井門 隆夫, 地域政策研究, 20, 2, 2017年12月
インターンシップにおけるコンピテンシーとモチベーションの関係性―観光業におけるインターンシップでの測定と観察, 井門隆夫, 第31回日本観光研究学会全国大会論文集, 2016年12月
公的データにみる宿泊業の労働生産性向上の可能性, 井門隆夫, 第30回日本観光研究学会全国大会論文集, 2015年12月
観光・旅行分野における顧客満足度調査について, 井門 隆夫, オペレーションズ・リサーチ, 50, 1
ニューツーリズムの現状と展望, 井門 隆夫, 関西国際大学紀要, 12
21K12457, 2021, 日本学術振興会, 科学研究費, 小規模宿泊業における資本のあり方に関する研究
18K11843, 2018, 日本学術振興会, 科学研究費, 小規模旅館業の労働生産性に関する実証的研究
21K12457, 小規模宿泊業における資本のあり方に関する研究, 本研究では、日本における小規模宿泊業において「資本(所有)と運営を分離」し、営業利益を生み持続可能となる経営モデルを調査で明らかにしていく。日本の小規模宿泊業の労働生産性が低い背景には、赤字法人と黒字個人でバランスを保つことを債務者と債権者である金融機関の双方が了解している状況がある。そのため、抜本的に労働生産性を向上するためには、経営者を個人保証から切り離し、海外で見られるような資本と運営分離形式へとシフトしていくことが望ましい。そうしたスキームにおいて、小規模宿泊業がどのように利益や価値を創出していくべきか、国内外の先行事例の経営者インタビューや参与観察調査で明らかにしたい。;本研究の目的は、日本の小規模宿泊業の価値と、その価値を持続可能とするための新しい資本のあり方のスタンダードを学術的(経営学的)に示すことである。;これまでの小規模宿泊業は、家族経営が中心であった。小さな資本しか持たない家族経営者でも自己所有の不動産担保価値や「個人保証」をもとに大きな借入ができたことは地域雇用と経済循環を生み出し日本の地方経済の発展を支えたが、その過程で経営者の資産を増やし、万一の個人保証に備えるという「赤字法人と黒字個人で資本のバランスを保つ形態」が標準化した。しかし、個人の黒字の貯蓄状況は秘匿され明らかにできず、統計上は赤字法人の部分しか公にならないため、低い労働生産性が問題視されるようになった。;小規模宿泊業の労働生産性は1993年をピークに下がる一方で、資本の大きな宿泊業との差は広がるばかりであり、法人の債務超過も常態化している。一方で、通常融資を受けられ経営が存続できている点から推察できるのは、個人の貯蓄も増え続けているという実態である。つまり、小規模宿泊業の労働生産性を改善するためには、資本(過剰債務)と運営(収益)を切り離し判断しない限り抜本的な解決にはならない。;先進国の中で未だに日本の債権法に残る個人保証制度も廃止に向けた動きが生まれ始めているが、完全廃止を待つ以前に倒産ラッシュが来ないとも限らず、小規模宿泊業の労働生産性を向上するためには、経営者を個人保証から切り離し、資本と運営の分離形式へとシフトしていくことが経営上望まれる。;そこで本研究では、国内において小規模宿泊業の資本と運営を分離して経営する先行事例や、海外における資本と運営を分離した小規模宿泊業の事例研究を、経営者インタビューや文献調査にて明らかにしていく。学術的到達点としては、日本の小規模宿泊業における経営手法の転換可能性を明らかにし、市場に応用していくことを目指す。;研究初年度(21年度)では、統計データや先行研究調査のほか、国内における先行的な取り組みの視察及びインタビュー調査を行った。;代表事例としては、後継者がなく廃業が予見される温泉地において、代表的企業が中心となりまちづくり会社を組成し、将来に廃業が見込まれる法人をM&Aしていく計画の初期的な動向のリサーチを実施している。また、小規模宿泊業に対する投融資意向に関して、金融機関や投資ファンドにインタビューを行い、主要な課題を把握した。;研究2年目(22年度)においては、海外の小規模宿泊業の事例として、National Geographicが選定した63軒のユニークロッジリストを入手し、そのうち1社(ベトナムのTopas Ecolodge)について現地調査にて経営者インタビュー等の事例研究を実施した。その結果、資本と運営が分離していることはもとより、長期的資本が投資され、中長期的なロジックモデルに基づく社会課題の解決と収益性の両立が図られていることが明らかになった。また他の複数のロッジを文献調査したところ、同様の傾向が見られた。また、資本は外部資本、運営は地元の傾向があり、大規模宿泊業とは逆転現象が見られた。つまり、日本の小規模宿泊業と同じ家族運営である一方で、資本が外部資本となることにより、経営目標や手法が異質になる点が判明した。事例では、小規模宿泊業は外部資本の支援により、地域の社会課題解決による地域経済発展の拠点となっており、日本において応用可能なモデル構築を目指す学術的目標を得ることができた。;研究最終年度(23年度)には、継続して国内の事例調査及び海外文献調査を行う。本研究の方向性として、小規模宿泊業の価値として、地域の産業の発展、文化の維持、行政コストの削減、流入人口の増加といった社会課題解決による地域の持続可能性に結びつく、多様な個性を持った業態であることと定義したい。その上で、社会資本による出資と地元家族による運営により、個人貯蓄や個人保証と切り離された社会企業としての存在意義を見出すことができる。;事例として、初年度に調査を行った島根県温泉津温泉の変化と資本構造・運営上の収益について経営者インタビュー調査を行う。また、2年目に調査を行った海外63軒のユニークロッジについて、経営の実態に関する文献探索と分析を進めたい。;これにより、本研究では、資本と運営を分離した経営体こそ、人口が減少し社会課題が山積する地域において、小規模宿泊業の価値創造と発展を導くという仮説の検証を行うものとしたい。
18K11843, 小規模旅館業の労働生産性向上に資する実証的研究, 本研究は、宿泊業の60%を占める資本金1千万円未満の宿泊業に多い小規模旅館業の労働生産性について、生産性の低さの要因と改善の方向性を調査研究したものである。研究方法はフィールド調査を軸として、決算書の分析と経営者へのインタビュー調査等を行った。その結果、労働生産性を規定する主要因は、施設や労務効率といった表面的な問題ではなく、家族のみが出資する小規模事業者では、資産を担保とする連帯保証制度と多くの経営者預金が低収益性や債務超過を誘発し、結果として生産性を低めているという結論を得た。その改善に向けては債権法の改正のほか、新需要開発による収益性向上と家族以外の出資を促すスキームづくりが求められる。;観光研究分野の中で旅館業経営に関する研究は数多くない。その一因として旅館業は小規模事業者が多く、決算状況が開示されていないという事情があり、本研究では研究者の人脈及び商工会議所の協力により決算データを入手、分析できた点で意義がある。労働生産性については、業界全体が指摘を受けることが少なくないが、その構造の背景には、小さな資本で大きな借入れをして事業を興し、人口増加・経済成長を前提とした需要を対象としてきた事業モデルの存在がある。その結果、人口減少時代において収益力の低下や債務超過といった現象が起きている。今後は対処療法的な改善ではなく、資本のあり方の見直しを含めた根本的な対策が求められる。