中国語を母語とする上級日本語学習者は日本語のヴォイスをどのように表すか―受身表現,ナル,テモラウから分かること―, 学苑, 960, 32, 40, 2020年10月, 中国語母語話者の日本語のヴォイス表現の使用については、受身表現よりも能動表現を選ぶことが指摘されている。しかし,1つのヴォイス表現を対象としたものが多く,複数の項目を同時に観察したものは多くない。ヴォイス表現は視点にかかわる表現であるため,複数の項目を観察することが有効である。そこで本研究では,中国語を母語とする上級の日本語学習者における受身表現,ナル表現,テモラウを観察し,上級になっても残るヴォイス表現運用の困難点について分析した。その結果, (1)中国語母語話者は受身表現より能動表現を選ぶ傾向があるが、能動表現の使用自体が問題なのではなく、テキストのどの位置で使用するかが異なること, (2)初級で学習する基本的なナル表現を平易な語彙と組み合わせて使用しており,複雑な表現や語彙の代用として使われることがあること,(3)語彙の不足を補うために,テモラウ(テイタダク)を使用することがあることが明らかになった。
韓国語母語話者、中国語母語話者の「勘どころ」を押さえた記述とは―「スルようになる」を例に, 日本語/日本語教育研究, 8, 37, 52, 2017年07月, 日本語/日本語教育研究会, 本稿は、学習者の母語により「勘どころ」(白川2002)を抑えた文法記述が異なるということを、学習者の母語との対照分析、学習者の書き言葉データ・話し言葉データにおける使用状況分析に基づいて論じたものである。韓国語は「ようになる」に相当する形式(ge-doeda)が存在するため過剰使用が起こりやすい。したがって、"ge-doeda" では言えるが「ようになる」では言えない場合の例示が必要になる。一方、中国語には「ようになる」に相当する形式がないため、非用が起こりやすい。したがって、副詞(例「だんだん」)の付加だけでは変化は表せないこと、「始める」や「ている」と「ようになる」との違いを明示し、非用を未然に防ぐための記述が必要になる。
「勘どころ」を押さえた文法記述に対する反応調査-韓国語母語話者を対象とした「ようになる」を例に, 植松 容子, 横浜国大国語研究, 35, 35, 109, 123, 2017年03月, 横浜国立大学, 植松(2014)において、「YNU書き言葉コーパス」における韓国語母語話者の「ようになる」の使用状況を分析した結果、韓国語母語話者は「ようになる」を過剰使用していることが観察された。これらの誤用をもとに考えると、韓国語母語話者を対象とした「ようになる」の説明には、次の3点が必要であると考えられる。(1)韓国語のge-doedaは日本語の「ようになる」と似ているようであるが違う部分もある、(2)誤用パターン1「動作動詞に「ようになる」を付加して1回の出来事を表した誤用」の例をあげ、日本語では「ようにになる」で言えないことを示す、(3)誤用パターン2「変化の含意がある動詞に「ようになる」を付加して自然な変化を表した誤用」の例をあげ、日本語では「~てくる」で表すことを示す
そこで本稿では、上記3点を記述として盛り込んだ文法説明を韓国語母語話者に見てもらい、インタビューを実施した。その結果、有効だと回答した部分と不要だと回答した部分があり、誤用に配慮した説明でありながらも簡潔な説明を求めていることが明らかとなった。学習者の運用に結びつく文法説明を考えていくためにも、このような調査を実施することの有効性が示唆された。
中国語母語話者は「ようになる」と何を類義表現と捉えるか―対照研究と誤用観察から分かること―, 植松 容子, 学苑, 910, 27, 36, 2016年08月, 昭和女子大学, 「ようになる」は、これまでの日本語教育において、前接する動詞の形式(辞書形か、可能形か)にもとづき、辞書形接続の場合は習慣の変化を、可能形接続の場合は能力の変化を表すと説明されてきた。しかし、YNU書き言葉コーパスを用いて中国語母語話者の使用状況を観察してみると、中国語母語話者は「ようになる」をあまり使用していないということが分かる。そこで本稿では対照分析と誤用観察を用いて中国語を母語とする日本語学習者のデータを観察した。その結果、中国語母語話者は「ようになる」を「ている」と類義表現であると捉えていることが示唆された。学習者の母語に配慮してその使用実態を観察することにより、日本語学的な視点から見ていたのでは気づかない類義表現を新たに浮かび上がらせることができたと言える。
日本語教育における「ようになる」の扱い―韓国語母語話者を対象とした文法記述のために―, 植松 容子; 昭和女子大学日本語日本文学科, 学苑, 864, 864, 30, 37, 2012年10月, 昭和女子大学, 本稿は、日本語教育における「ようになる」の扱い方について、教科書分析の手法を落ちいて調査を行ったものである。その結果、「ようになる」は初級後半に「技能の獲得」(例:日本に来てからできるようになったこと)という文脈で提出されることが多く、文法説明は「状態変化を表す」と説明される傾向がある。さらに、この結果を韓国語母語話者の誤用例と照合してみると、このような説明は日本語学的には妥当であるものの、非母語話者の運用につなげる記述としては、十分であるとは言えない。とりわけ、韓国語母語話者を対象とした場合には、記述に不足している点があることを主張した。
学習者の視点を文法記述に取り入れるための方法論の検討, 植松 容子; 昭和女子大学日本語日本文学科, 学苑(日本文学紀要), 855, 855, 16, 25, 2012年01月, 昭和女子大学, 本稿は、日本語教育に資する記述を行うための方法論の検討として、日本語学習者の作文をもとにインタビューを行うということの有効性を検討したものである。日本語教育文法の記述を目的とした場合に、作文調査に加えてインタビュー調査を行う利点は以下の3点にまとめられる。①対立する項目がある場合に、どちらの項目をどのように捉えて誤用に(正用に)至ったかを把握しやすい、②特定の文法項目の使い方が不自然であっても、当該文法項目について持っている知識は間違っていないということが確認できる、③誤用をひきおこす原因が意外なところにあり、記述のためのヒントを教えてくれる
国文法を楽しく学ぶための一試案 -動詞の活用の種類と活用形の指導を例に-, 實踐國文學 78, 78, 左1-11, 2010年10月, 実践女子大学, 中学校に在籍する帰国子女学生対象の国文法の授業において、「楽しく学ぶ」「より理解を深める」という目標を達成するために、カルタゲームに似た手法を取り入れて指導を行った。その結果、通常の授業では見られない「学習者間の活発な学び合い(学習者同士で教え合うこと)」が観察された。カルタゲームに似た手法を取り入れることにより、国文法学習への抵抗感を取り除くことができることと、国文法への理解を深めることに有効であることが示唆された。
「〜からこそ」の文法説明に関する一考察-「唯一の理由として強調する」とは何か?-, 鈴木 容子, 文化外国語専門学校紀要, 23, 1, 17, 2010年02月, 文化外国語専門学校, (旧日本語能力試験の)2級文法の項目の1つである「~からこそ」は、「唯一の理由として強調する」と説明されることが多いが、「唯一の理由」とは何か、「強調する」とはどういうことかがあいまいであり、非母語話者に対する説明としては十分ではない。そこで、書き言葉資料をデータとして分析を行った結果、「からこそ」は「相手が気付いていない(想定していない)因果関係を、意見として述べる時に使うことが多い」ということが明らかになった。
日本語における非行為者主語の他動詞文-構文のタイプとその関連性-, 鈴木 容子, 日本語文法, 8, 2, 71, 87, 2008年09月, 日本語文法学会, 本稿は、博士論文の内容を1本の論文としてまとめたものである。「主語が行為者ではないのに他動詞表現を用いて「スル」と言えるもの」を「非行為者主語の他動詞文」と名付け、これには3つのタイプがあることを示し、これらの関連について論じた。3つのタイプのうち「美容院で髪を切る」タイプの他動詞文(=再帰使役他動詞文)は、他の2つの他動詞文の性質を併せ持っているものであるという結果になり、このことは日本語の他動詞文が「使役」と「再帰」という2つの動機をもとに成立していることを示唆しているということを述べた。
自動詞使役構文の意味特徴-被使役者が非情物の場合を中心に-, 鈴木 容子, 国文学攷, 196, 1, 11, 2007年12月, 広島大学国語国文学会, 「高齢者が餅をのどに詰まらせた」という文は「*高齢者が餅をのどに詰めた」という他動詞表現に言い換えることはできない。本稿は、被使役者が非情物の場合の自動詞使役構文に注目して、その意味特徴を記述した。その結果、何かの原因をきっかけとして、被使役者の自発性により変化が起こる(=自然にそうなる)場合に自動詞使役構文が用いられるということを述べた。
使役的他動詞文の成立条件-語用論的な条件の検討を中心に-, 鈴木 容子, 広島大学大学院教育学研究科紀要. 第二部, 文化教育開発関連領域, 56, 217, 225, 2007年12月, 広島大学大学院教育学研究科, 「聖徳太子が法隆寺を建てた」という他動詞文は、「聖徳太子自らの手で(道具を持って動いて)法隆寺を
建てた」という解釈も可能であるが、「聖徳太子が家来に命令して、法隆寺を
建てさせた」という解釈も可能である。このように、実際の行為者は主語として表示されず、使役者の立場にある者が主語として表示されるものを「使役的他動詞文」と呼ぶ。本稿では母語話者を対象とした「例文の解釈可能性」のアンケートをもとに、成立条件を検討した。
日本語の他動詞文におけるデ格と主語の意味役割, 広島大学大学院教育学研究科紀要. 第二部, 文化教育開発関連領域, 55, 241, 250, 2007年03月, 広島大学大学院教育学研究科, 本稿は、日本語の特殊な他動詞文を考察する前提として「はだかの他動詞文」という必須補語のみで構成された他動詞文の分析と、それにデ格(道具・場所・原因)を不可した際の意図性の変化について論じた。その結果、変化他動詞文は「はだかの他動詞文」の状態では意図性は不問で、道具格を付加することにより[+意図的]となり、原因格を付加することにより[-意図的]となるということが分かった。「はだかの他動詞文」という枠組みを用いると複雑な他動詞文の分析が容易になるということが示唆された。
日本語の事象における結果性の検討, 広島大学大学院教育学研究科紀要. 第二部, 文化教育開発関連領域, 54, 231, 238, 2005年03月, 本稿は、文を分析する際に用いられる「結果性」という概念について、動詞レベルではなく動詞句レベルで検討する必要があるということを述べたものである。文を分析する際に動詞レベルで考えられた「結果性」を用いると、大方は問題なく説明がつくものの、いくつかの動詞に関しては再分類をせざるを得なくなる。動詞句レベルでの「結果性」を検討することにより、説明対象となる現象によって動詞を分類し直す必要がなくなるという利点があることを述べた。
上級日本語学習者を対象とした古語レディネス調査-韓国語母語話者を例に, 韓国日本語学会第48回国際学術発表大会, 2023年09月23日, 韓国(ソウル市)
中国語母語話者における “基本のナル” の使用状況―KYコーパスを例に-, 第50回中国語話者のための日本語教育研究会, 2021年09月12日, オンライン開催, 本発表では、初級で必ず学習するナル表現、「イ形容詞+ナル」、「ナ形容詞+ナル」、「名詞+ナル」を “基本のナル” と呼び、KYコーパスを用いて、中国語母語話者における使用状況を観察した。その結果、初級や中級においては未習の語彙の代用としてナル表現を活用し、上級においてはヴォイス表現に迷う際の代用としてナル表現が活用されている様子が観察された。また、ナル表現を使わずにコピュラ文で言えるにもかかわらずナルを使用する例も見られた。
韓国語母語話者における “基本のナル” の使用状況 ―KYコーパスから分かること―, 韓国日本語学会第43・44回学術大会, 2021年09月11日, 漢陽サイバー大学(オンライン開催), 本発表では、初級で必ず学習するナル表現、「イ形容詞+ナル」、「ナ形容詞+ナル」、「名詞+ナル」を “基本のナル” と呼び、KYコーパスを用いて、韓国語母語話者における使用状を観察した。その結果、韓国語母語話者は上級から超級にかけて、顕著に「名詞+ナル」の使用に増加が見られた。そこで韓国語母語話者が産出した「名詞+ナル」のうち、誤用や不自然な使用、また、正用ではあるが日本語教育の教科書ではあまり扱われないコロケーションを30取り上げ、それが韓国語でどのように表現されるのかについて追調査した。その結果、①慣用表現的な「名詞+ナル」(例:「勉強になる」)はあまり問題がない、②韓国語では文脈によって「名詞+되다」で言えるが、日本語では言えないものは誤りやすい、ことが示唆された。
WeChatを用いた合同授業型遠隔授業-日本語文法を題材といてー, 植松容子, 第54回日本語教育方法研究会, 2020年03月14日, 東京(文京区), 近年、教育機関におけるICT機器の普及にともない、日本語教育においても遠隔授業の実践が増えてきている。しかし、その多くは日本語指導や語学学習を目的とした交流、異文化間交流であり、海外の大学と同期双方向で内容重視の合同授業を実践した例は多くない。そこで本研究では、昭和女子大学の日本語教師養成課程における日本語文法論の授業と、北京郵電大学大学院で日本語学を学ぶクラスをWeChatを用いてつなぎ、合同授業を試みた。アンケートの結果、日本語母語話者にとっては「予想外の質問によって考えさせられる」という点において、海外の日本語学習者にとっては「批判的思考力が鍛えられる」という点において教育的効果があることが示唆された。
中国語母語話者は日本語のヴォイスをどのように表すかー受身表現とナル表現を中心に―, 植松容子, 2019年日本語の誤用及び第二言語習得研究国際シンポジウム, 2019年11月09日, 中国(北京市), これまでの研究において、中国語母語話者のヴォイスの誤用分析研究及び習得研究は蓄積がある。しかし、個々の研究で対象とする文法項目は限られており、ヴォイス全体を俯瞰したものは管見の限りでは見当たらない。そこで、本研究では日本語母語話者との比較が可能であるYNUコーパスを使用し、作文の中に様々な視点があらわれる新聞投書タスクを取り上げ、分析を行った。その結果、受身表現は先行研究で指摘されているとおり、中国語母語話者は日本語母語話者よりも使用が少ないが、不使用の要因の一つには語彙が関与していることが分かった。また、ナル表現については、両者の使用数はほぼ同数であるが、具体的な表現に注目すると、中国語母語話者は日本語母語話者が使用していないコロケーションを多用しており、既知の文法項目と平易な語彙を組み合わせていることが観察された。これらの結果に基づき、日本語のヴォイス表現の指導の際には、文法的な側面だけでなく語彙的にも広げていく工夫が必要であることを指摘した。
日本語学習者が狂言を楽しむための情報提示のあり方ーあらすじの英訳を例に-, 植松容子; 山本晶子; 御手洗碧; 松村咲歩, 第52回日本語教育方法研究会, 2019年03月23日, 三鷹市(杏林大学井之頭キャンパス), 日本の伝統芸能の中で能や歌舞伎は留学生にもよく知られているが、狂言の認知度は低いため、昭和女子大学日本文化発信プロジェクトでは留学生に狂言の魅力を伝える活動を行っている。今年度は「狂言の台詞を楽しむ」ことを目的に、演目「附子」のあらすじを日本語及び英語で記した上で、台詞の一部を示す冊子を作成した。その冊子をもとに非漢字圏の日本語学習者を対象に調査した結果、英訳があることで理解が促進されることが示唆された。一方、鑑賞前にあらすじを読みたくないという声や、キーワード(例:附子)を理解していなかったために誤解が生じたケースも見られた。あらすじの英訳に加えて、内容の予測を促す工夫が必要でると考えられる。
「やさしい日本語」による狂言の紹介―日本語学習者を対象とした冊子作成の試み―, 植松容子; 山本晶子; 五十里美歩; 太田くるみ, 第50回日本語教育方法研究会, 2018年03月24日, 日本語教育方法研究会, 愛知県名古屋市, 日本の伝統芸能の中で、能や歌舞伎は留学生にもよく知られているが、狂言の認知度は低い。そこで、学生プロジェクトの一環として、留学生に狂言を紹介するための冊子作成を試みた。冊子の作成には「やさしい日本語」を使い、情報の見せ方を工夫した。作成後、3名の非漢字圏出身の日本語学習者を対象に、冊子に対する印象についてインタビューを行った。その結果、「狂言の基礎知識」と曲中の台詞を解説した「分かりにくい言葉の意味」の評価が高かった。前者は予想通りであったのに対し、後者は予想と異なる結果であった。本調査の結果から、古語であっても「言葉も理解したい」という欲求があることが示唆される。
「ようになる」の記述―「る」「始める」「てくる」「ことになる」をもとに, 第4回 実在の誤用に基づく類義表現研究会, 2018年01月21日, 「ようになる」は日本語学習者にとって、レベルが上がっても適切に運用するのが難しい項目である。運用が難しい背景には、中級レベルになると、初級で学習したさまざまな文型間の違いについて整理する機会が不足していることがあげられる。植松(2017)では、中国語母語話者にとって「ようになる」と似ているように見える表現の1つに、「始める」等があることを指摘した。その成果をもとに、中国語母語話者にとっての「ようになる」の類義表現として「る」「始める」「てくる」「ことになる」を取り上げ、これらの使い分けについて記述した。
中国語母語話者の母語の感覚を生かした文法説明―「ようになる」を例に, 植松容子; 熊鶯, 第9回中日対照言語学シンポジウム, 2017年08月19日, 中国・北京(北京北方工業大学), 植松(2017)では、中国語母語話者における「ようになる」の使用状況を観察した結果、「ようになる」をあまり使用していないという傾向が見られた。さらに「ようになる」の代わりに①「~ている」、②「始める」、③「だんだん」を使用する傾向があることが示唆された。そこで、植松(2017)の結果に基づき、①動詞を使って変化を表すには文末に「ようになる」が必要であること、②「ようになる」と「始める」の違い、③副詞(例「どんどん」)だけでは変化を表せないこと、の3点に留意して具体的な記述を行った。その記述を、日本の大学に在籍する中国語母語話者(N1 5名、N2 5名)を対象に、反応を調査した。調査の結果、特に役に立つと判断されたのは、②の「「ようになる」と「始める」の違い」であった。
「~た」と「~ようになった」について, 第1回実在の誤用に基づく類義表現研究会, 2016年09月10日, 大阪, 植松(2016)において、中国語母語話者は「ようになる」を「ている」や「た」と類義表現であると捉えている可能性があることを指摘した。このうち、「ようになった」と「た」は両方とも【既に変化したこと】を表すことができるため、類義表現関係にある。そこで本発表では、先行研究に基づいて「ようになる」を【意志性】【進展性】という要素により3タイプに分類した上で、それぞれのタイプにおける「ようになる」と「た」を類義表現として記述した。日本語学習者の運用に結びつく記述にするため、構文的・意味的な記述ではなく、「ようになる」が使用される文脈の記述を試みた。その結果、「ようになった」はより【報告する】という文脈で用いられやすいことを述べた。
中国語話者は「ようになる」と何を類義表現として捉えるか―中国語母語話者を対象とした「ようになる」の記述に向けて―, 第35回中国語話者のための日本語教育研究会, 2016年03月05日, 名古屋大学, 本発表では、「ようになる」を中国語母語話者があまり使用しないという事実に基づき、<対照研究>と<誤用観察>を行うことを通して、中国語母語話者の学習上の「勘どころ(白川2002)」を押さえた「ようになる」記述の観点を探ることである。<対照研究>の結果、日本語の「ようになる」は中国語では「~了」で表されることが多いことが分かった。また、<誤用観察>の結果、日本語母語話者が「ようになる」を使用する文脈を中国語母語話者は「~テイル」を使って表すことが確認された。中国語において「了」は変化を表すため、中国語母語話者はなぜわざわざ「ようになる」を用いなければならないのかが分からず、変化後の状態や様態(現在は~ている)に注目してしまうことが示唆された。
中国語母語話者における動詞変化構文の使用状況―母語の感覚に配慮した文法記述のために―, 2015年度日本語教育学会春季大会, 2015年05月31日, 本発表は、YNU書き言葉コーパスを用いて中国語母語話者と日本語母語話者の動詞変化構文(「ことにする」「ことになる」「ようにする」「ようになる」)の使用状況を比較・分析したものである。分析の結果、日本語母語話者と中国語母語話者では使用している用法に違いが見られた。中でも「ようになる」は中国語母語話者の使用が少なく、中国語母語話者は日本語母語話者が「ようになる」を使用している部分を「~テイル」や「~始める」のようなアスペクト表現等を用いて代用しているという傾向が明らかになった。
「ようになる」の文法記述―韓国語母語話者を対象とした場合, 日本語/日本語教育研究会 第4回大会, 2012年09月30日, 学習院女子大学, 本発表では、日本語教育における従来の「ようになる」の文法説明は正しくないわけではないが、韓国語母語話者の勘どころに合う説明とは言い難いということを主張した。韓国語母語話者を対象とした「ようになる」の記述の勘どころとは、「「ようになる」と「ことになる」を類似表現と捉えること」、「意志動詞を使って一回性の出来事を表している誤用例を示すこと」、「「状態変化」という術語の使い方に注意すること」の3点にまとめられる。
韓国語母語話者における「~ようになる」文の理解―母語に配慮した文法記述のために―, 第123回関東日本語談話会, 2012年09月01日, 学習院女子大学, 本発表では韓国語を母語とする日本語学習者(上級)に見られる「ようになる」の誤用を出発点とし、韓国語における「ようになる(ge dweda)」の使われ方と、韓国語母語話者が日本語の「ようになる」文をどのように理解するかについて調査を行った。その結果、韓国語母語話者の勘どころに合う「ようになる」の記述を行うには、「結果」ではなく「変化」であることを明示すること、また、意志動詞を使用した際の誤用例と誤用を防ぐための記述を行うべきであることが示唆された。
中上級の会話力アップをめざして!, 2012年度 長沼スクール日本語教師夏季集中セミナー, 2012年08月, 本講座は、現職日本語教師の方を対象としたブラッシュアップ講座である。日常生活の会話においては、ある状況ではこのように言う、というのは絶対的に決まっているわけではない。その人個人が何をどのように伝えたいのか、また、相手が誰なのかによっても適切な表現は異なる。中上級のレベルになり、より自然な日本語の運用を目指す場合には、どのような点に留意して授業を行えばいいのだろうか。本講座では午前中に会話教育の理論を学習し、午後に会話教育教材を使用して具体的に授業をどのように展開していくのか、ワークショップを行った。
日本語学習者から見た他動詞文―学習者の視点を文法記述に生かすために―, 第104回関東日本語談話会, 2009年05月, 学習院女子大学, 近年盛んになっている日本語教育文法の記述は、母語話者コーパスや非母語話者コーパスを用いて、特定の形式の使用状況の違いを明らかにするというタイプのものが多い。もちろんそのような研究は有益な成果であるが、日本語学習者(日本語非母語話者)の視点を記述に取り入れる方法はまだ試行錯誤の段階である。本発表では学習者の視点を文法記述に生かすための方法論の試みと、そこから得られたことを述べた。
他動詞文とテモラウ文が類義表現となる場合の使い分け―「髪を切る」という場合を例に-, 第7回日本語教育学世界大会, 2008年07月, 韓国・釜山(釜山外国語大学), 本発表は、「髪を切る」と「髪を切ってもらう」の使い分けについて、新聞記事と、美容院が舞台になっているドラマのシナリオをもとに実例を収集して論じたものである。分析の結果、テモラウ文は「特別に切ってもらった」と言いたい場合(「恩恵」という意味にフォーカスが当たる場合)に、他動詞文は「第三者に依頼して何かをしてもらい、その結果を主語が所有している」ということについて言いたい場合(「変化」という意味にフォーカスが当たる場合)に使われるということを述べた。
日本語における非行為者主語の他動詞文―他動詞文の意味の決まり方-, 広島大学日本語教育研究会 第7回例会, 2006年12月, 本発表は、日本語の他動詞文について、どのような場合にどのような解釈可能性があるのかについて考えたものである。他動詞文は、動詞句に結果性の含意がない場合(例「ドアをたたいた」)は「主語が動詞句で表示された動作を行った」という1つの解釈しかできないが、動詞句に結果性の含意がある場合は語用論的な要因で、典型的な解釈(=主語が実際にその行為を行った)になるかどうかが決まるということを述べた。
他動詞文における状態変化主体の他動詞文の位置づけ, 日本語文法学会第7回大会, 2006年12月, 神戸大学, 本発表では、状態変化主主体の他動詞文(天野1987)のような特殊な他動詞文について考えるには、まず必須補語のみの他動詞文(本発表では「はだかの他動詞文」と呼ぶ)を検討し、その枠組みを用いて分析を行うことの有効性を主張したものである。
「高齢者がもちをのどに詰まらせた」―自動詞の使役と自他の対応-, 日本語教育学会, 2005年10月, 金沢大学, 従来、自動詞の使役と自他の対応に関しては「対応する他動詞をもたない場合にその代用として使う」「対応する他動詞をもつ場合はその他動詞を使うのが普通で、自動詞の使役を使うと不自然」と言われてきた。しかし、表題例文は「つまる」に対応する「つめる」があるにもかかわらず自動詞の使役が使われており、他動詞では言えない。本発表では表題例文をもとに、なぜこの場合に他動詞表現ができないのかについて考察を行った。
他動詞文の一分類, 日本言語学会夏期講座ナイトセッション, 2004年08月, 本発表は、非典型的と言われる他動詞文(主に介在性の他動詞文)を考察する前提として、いくつかの小説や新聞から得られた全ての他動詞文の実例をもとに、典型的とは言えないもにはどのようなタイプがあるのかを概観し、タイプ分けを試みたものである。
「美容院で髪を切る」のような言い方が成立する条件, 本発表では「美容院で髪を切る」のような介在性の他動詞表現の成立条件について; 動詞の性質からだけではなく受益場面という談話的視点から考察を行った。その結果; この構文の成立のためには「動詞(句)に結果性の含意があること」が必要であるが; これに加えて「受益場面であること」「自分でするのが難しいことであること」「ヲ格が身体部位又は無生の所属物であること」「受益者が有生であること」という条件が必要になるということを述べた。, 日本語文法学会第4回大会, 2003年11月, 青山学院大学